娘さんから連絡を受けた先生は、訪問看護師の矢中さん(仮名)にも急遽訪問をお願いしました。
訪問時、さよ子さん(仮名)の意識は回復していましたが、血圧がいつもより低くなっています。
血液の検査を行うと、貧血が進んでいました。
先生は、娘さんに状況を説明しました。
「延命処置はしない」と言われていましたが、今は輸血が必要な状態です。
先生は、さよ子さんに今の気持ちを確認しました。
答えは「主人より、早く逝きたくないわ」でした。
在宅で輸血を行う場合、準備に3日程かかります。
緊急輸血が必要な状態なので、自宅での輸血は難しく
通院していた病院に、輸血をお願いすることになりました。
1泊2日の入院でした。
退院の翌日に伺うと
「大変だったわ... 看護師さん 何回も見に来るでしょ。あんなに来なくてもいいわねぇ。疲れたわぁ.. 」
輸血の時は、副反応の観察をするため、何度もお部屋に様子を観に行くことになります。
病院の看護師さんはきちんと対応してくれていたのですが...
「気を遣うから、もう病院は嫌よね。家だと好きなことできるでしょ。食べられるしね」と
さよ子さんは 満面の笑みで話してくれます。
その3日後。
追加で輸血を行う予定にしていたのですが、朝から血を吐いたと連絡が入りました。下血もしています。
急遽、往診に向かいます。今回は下血だけでなく、吐血もしています。。 信号待ちが腹立たしく思います。。。
訪問看護師の矢中さんも駆けつけてくれました。
準備していた輸血をすぐに始めました。
先生は、娘さんにさよ子さんの状態が厳しいことを伝えました。
次の日、
バイタルサイン(体温、脈拍、呼吸、血圧)も安定しています。
吐血と下血はおさまっています。
さよ子さんは「もう、食べていいねぇ。。」と、けろっとしています。
出血した翌日なので、病院なら『絶飲食』です。
「食べれそう? 吐き気やおなか痛くない?」と尋ねると
「大丈夫よぅ。食べたいものがいっぱいでねぇ... 血を吐いたときね、もう 死ぬかと思ったわぁ。
だから食べたいものを食べておかないとねぇ」
「庭のサクランボ(佐藤錦)がね、5月の連休あたりに食べられるようになるの。
甘いのよ。今年も、それ食べないとねぇ」と、にこやかに話しています。
「そうねぇ…」と相槌をうちながらも
心の中では、「5月の連休かぁ... 厳しいかも?」 と、先生も 私も 娘さんも思っていました。
次に出血がおこると、どうなるか分からないからです…
それから、3週間…
さよ子さんは、矢中さんと車いすで近くの神社まで散歩に行きました。
「疲れやすくなったわぁ」と言いながらも
ベッドの背にもたれて、以前のように編み物や読書もしています。
1カ月もすると
「サクランボ🍒…食べたよ。甘かったわぁ。次はスモモ食べないと。。。
ガレージの上にブドウ(巨峰🍇)もあるでしょ。お盆の頃にはブドウがとれるのよ。
楽しみでねぇ」とさよ子さん。
ご自分のペースで、好きなものを食べながら、一日一日を過ごしています。
娘さんは、お母さんの希望通りに、「食べたい」ものを手配してくれています。
その後、さよ子さんは
「足の力が落ちたので、リハビリをしたい」と言いだしました。
矢中さんと一緒に、ご近所を散歩したり、階段の昇り降りの練習も始めました。
さよ子さん、復活です!!
「じゃあ、また来週ね」と訪問時にはいつも見送ってくれます。
変わらない穏やかな笑顔に、先生も私も癒されています。